生命の根っこ:消化管と常在細菌叢
生命の根っこ:消化管と常在細菌叢
人という生命の木の根っこと果実の芳香
この世界の全ては、よく観察すると同じ構造を持ち、同じシステムで成り立っている。
だから、人は、植物と同じシステムを持っている。
人の健康について考えるとき、人を植物のシステムで考えてみると分かりやすい。体臭や口臭の理解のためにも、これが基本になる。
健康なヒトは豊かな森林である
例えば、豊かな森林を観察してみよう。それは、健康な人と同じだ。
豊かな森林は、土壌の微生物たちによって耕され、発酵し、ミネラルや有機物が豊かな土壌ができる。
その土壌から草木の根っこが養分や水分を吸い込み、
枝を伸ばし、
葉を茂らせ、
季節になると実をつける。
このシステムは、人にもある。
それが、消化管とそこに暮らす常在細菌叢とヒトの体の関係だ。
- 土壌環境=口腔内〜腸内環境
食物は人にとっての土だ。
まずは、消化管の入り口である口に放り込まれた食物は、咀嚼によって、口の中に暮らすたくさんの常在細菌達と唾液とミックスされ、土壌の元を作っている。
それが胃で消化され、十二指腸や小腸で胆汁や膵酵素などの消化液でされに消化され、小腸にたどり着く。小腸では、腸内細菌が食物を耕し、ヒトの栄養になるミネラルや有機物を合成している。大腸に運ばれてさらに大腸の腸内細菌達によって耕され、不要なものは、便として排泄される。 - 根っこ=腸の絨毛上皮
人は、ほとんどの栄養分を小腸から体内に吸収する。大腸からは主に水分を吸収する。腸の根っこである絨毛上皮は、ビロードの絨毯のようにフカフカだ。 - 草木の葉脈=血管
養分を運ぶ。 - 葉っぱや実=細胞や臓器・器官
- 果実の発するニオイ=体臭
植物のことを考えても、葉っぱや実が腐る原因として、根腐れを考えなければならない。消化管の機能低下、口腔内〜腸内の常在菌叢が腐敗のバランスに傾くことは、人にとっての根腐れと同じで、細胞や臓器・器官に大いに悪影響を与える。
体臭についても、同じだ。
体臭は、血液の中にある成分が汗や皮脂に分泌された揮発性の分子だ。血液環境が重要だが、血液環境は、腸内環境に影響される。だから、体臭が気になる場合、口腔内〜腸内環境を含めた消化管や土の原料としての食べものが超重要なのだ。
病原微生物から皮膚を保護もしてるんだからぁ。
アウトソーシング器官としての常在細菌叢
世界の人口より多い1人の常在細菌叢
人1人のあらゆる器官に共生する常在細菌叢(マイクロバイオーム)の数は、なんと世界の人口よりも多い。
- 口腔:100億個
- 胃:1万個
- 小腸:1兆個
- 大腸:100兆個(最多!)
- 皮膚:1兆個
- 膀胱・生殖器:1兆個
さらに、菌の種類は、世界の人種よりもさらに多い。
- 口腔:700種類以上
- 消化器:1000種類以上
- 皮膚:150種類以上
実は、これらの菌の99%以上が、人にとって有用な働きをする有用微生物だ。彼らは、何をしているのかというと、人の体の代謝や免疫の働きの一部を担うアウトソーシング機関として働いている。
彼らは、必ず、体内ではなく、体外にいる。消化管の中も実は口と肛門で外界と通じているために、体外と考えられる。
細菌たちはゲートキーパーである
人をちくわのような形状にシンプル化してみると分かりやすい。
口から肛門までを一直線の穴とすれば、その内腔である消化管(口〜食道〜十二指腸〜小腸〜大腸〜肛門)は、外界と繋がった体外である。そこから上皮を通過し、血液内に入ってようやく体内だ。体内には、絶対に「私」以外の生物は侵入してはならない。すぐに免疫細胞に見つかって殺されてしまう(これが「炎症」である)。
ちくわの穴の中である消化管内腔は、体外であり、外界だから、自分とは違う生物である、常在細菌叢が生息できるのだ。
彼らは、必ず体内と体外の境目の体外側に居て、体内を外敵(病原微生物やアレルゲン)から守るゲートキーパーとして、体内で働く免疫細胞たちと共同で体を守っている。
彼らは、人の消化できないものを消化し、体内に吸収できる形に変換している。さらに、遺伝子にまで影響を与えて、人の体内の代謝や免疫システムなどを調整している。
彼らは、人類史の始まりからずっと、私たちの友達として働いていたのに、なんでこれまでわからなかったのか?
それは、ゲノム解析技術がなったからだ。ゲノム解析ができるようになり、ようやく私たちは微生物の世界の全体像を垣間みた。
実は、それまでは、培養で同定される細菌しかわからなかったので、基本的には病原菌とされるごく一部の微生物しか知る由がなかった。
それでわかったことは、微生物の99%以上は、私たちにとって有用な働きをしていたということ。病原性のあるものは、1%未満でしかなかった。
腸内細菌はあなたの生きた歴史
腸内細菌を特定すれば、ヒトが特定できるというほどに、腸内細菌は多種多様。
- 生まれ育った環境(特に6歳まで)
- 家族(特に母親)の常在細菌叢
- 食生活歴
- ライフスタイル
- 抗生物質などの薬剤投与歴
- 年齢
- 民族
などの個人個人の遺伝的体質やライフスタイル、環境が腸内細菌叢の特性を決めている。
腸内細菌叢の特性は、あなたの物語だ。
歯周病菌は、原始の狩猟時代の化石からも見つかっていて、現代まで脈々と受け継がれているのよ。
便の悪臭化は根腐れの証
便やおならは臭いものと思っている人がいる。それは、間違いだ。便やおならの臭いは、腸内でタンパク質が腐敗したニオイだ。
消化力の低下でタンパク質が十分に消化されないままに小腸に留まると、腐敗菌の働きで腐敗し、ニオイの原因になる。それらは、活性酸素を発生したり、遺伝子を変異させたりして、発ガン物質として働くだけでなく、肝臓で上手く処理されなければ、汗臭や口臭、尿臭としてニオイの原因になる。
便やおならが臭いのは、健康とニオイの危険信号と捉えて、改善に努める方が良い。
口腔内細菌叢にもスポットライトを
腸内細菌叢(腸内フローラ)には、大いに注目が集まっている一方で、口腔内細菌叢にはほとんど光が当たっていない。口腔内の細菌叢は複雑な上、腸内細菌叢ほど研究が進んでいない現状もある。
しかし、口臭の原因の8割は、歯周病であり、これは口腔内細菌叢のバランスの崩れに他ならない。さらには、口腔内で炎症を起こす歯周病菌は、簡単に血液の中に侵入する。体内は絶対に、自分以外の生物を入れてはならないので、これはまずい!
免疫細胞たちは大暴れして、脳梗塞、心筋梗塞、大動脈瘤などの重大な血管疾患、さらには、アルツハイマー病、免疫疾患、流早産まで、引き起こす始末だ。
口腔内から腸内に歯周病菌が落下すると大腸がんなどの原因になる可能性もある。
毎日の適切な口腔ケアの積み重ねが口臭を防ぐだけでなく、全身の重大な病気の予防になる。
歯周病や虫歯は、すべて感染症であり、幼い頃の両親からの感染だけでなく、種類によっては、大人になってからのキスでもうつってしまう。
あなたの口が臭ければ、あなたのパートナーの口まで臭くなるかも知れない。
それだけでなく、病気の原因を大切な人に植え付けるかも知れない。
自分だけケアしても、パートナーと一緒にケアしないと意味ないわね!
今や厳禁よ!
とにかく、お口は、消化管の最初のゲートであり、超重要である。
あまり大口を開けるのも恥ずかしいが、これからはお口に光をあてていこう。