口臭連合軍②お口のニョロニョロみみず集団:T.d菌

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口臭連合軍②お口のニョロニョロみみず集団:T.d菌

お口の中の口腔内常在細菌叢の世界『お口の王国』の中の悪役たち口臭連合軍の中でも、とりわけ重症な歯周病に関連し、強い口臭や全身の疾患に関連する精鋭部隊「暴れる赤い連合隊/レッドコンプレックス」

口臭連合軍①では、レッドコンプレックスの親玉・P.g菌をご紹介した。

お口の王国について詳しくは

さて、口臭連合軍②では、パンチとスキンヘッドの親玉P.g菌の忠実な子分であるみみず集団。
T.d菌(Toreponema denticola:トレポネーマ・デンティコーラ)についてご紹介しよう。

はい。こちら!


出典:「日本歯周病学会雑誌」2017: 59 (3)144-151

実に、ニョロニョロしている。
このスベッと感、まさに、みみず!に違いない。

歯磨きしかせず、磨き残したプラークが放置されると、このニョロニョロ達は、親玉であるP.g菌と共に、歯間の奥の谷底で元気に活動を始めるのだ。

ニョロニョロ集団:細菌業界の巨大一族スピロヘータ

細菌の中には、一群のニョロニョロ達がいる。らせん状に巻いていて、ニョロニョロ動き回る性質を持った集団だ。
彼らは、スピロヘータという巨大な一族であり、細菌業界では一定の地位を築いている。
「スピロヘータ」一族の位置付けは、いわゆる「ロスチャイルド」一族や「トックフェラー」一族のような巨大なくくりだと考えたらOK。
その中にトレポネーマというファミリーがいて、T.d菌(トレポネーマ・デンティコーラ)は、そのファミリーの流れを汲む中で、口を好んで生息するものだ。
ちなみに、トレポネーマファミリーの親戚には、梅毒を起こす梅毒トレポネーマがいる。遺伝的に兄弟ほど近くはないが、同じファミリーだ。

破壊的な紛争地帯に生息

T.d菌は、「暴れる赤い連合隊/レッドコンプレックスの中核メンバーであり、親玉であるP.g菌の忠実な子分だ。
もう一種類のメンバーであるT.f菌と一緒に、忠実で協力的な関係を築いており、歯間の谷の奥底の紛争地帯の最前線に一緒に暮らしている。
彼らは、酸素が嫌いなので、歯間の谷底(歯肉溝)に生息している。歯肉や骨の破壊行為が大好きで、体の中のパトロール隊:免疫細胞達と常に攻防戦を繰り広げている。
T.d菌はの検出は、歯周病の重症度の目安になっており、慢性的で重症で、破壊的な歯周病患者の病巣から検出されることが多い。
また、T.d菌が検出される歯周病は、再発率も高いことが分かっている。

みみず集団は主に親から子にうつる

T.d菌が生息するには、酸素のない環境が必要である。お口の中の酸素のない環境というのは、つまり、歯と歯肉の間の歯肉溝。
歯が生えなければその環境は作れない。
T.d菌は、主には親などの近親者の唾液から歯の生えた子供へとニョロニョロと移行し、赤ちゃんに歯がちょっぴり覗く萌歯期からお口に定着できるようになる。
だいたい、18歳くらいまでにお口の中に定着するとされている。
ただし、溝が深くないと酸素が届いてしまうから、若いうちはあまり活発でもないし数も少ない。

治安の悪化がみみず集団を暴徒化

そもそも彼らは、掃除の行き届いた清潔な環境では、大変に大人しく平和な王国で目立たぬ存在として暮らしている。
P.g菌やT.d菌らが、暴れる赤い連合隊:レッドコンプレックスを形成するに至るには、まずは口腔王国が荒廃する治安悪化が先立つのだ。
ギャングの多い街の落書きを消して、街を清掃して綺麗にしたら、治安が改善する例があるだろう。
環境が、そこに暮らす存在の振る舞いに影響する。
口腔内においても同じだ。
清掃不足が深刻で慢性的になると、そこに暮らす細菌の属性が変わってくる。不潔な環境を好む細菌達が優勢になり、徐々に治安が悪化してくるのだ。
歯肉溝の谷が深く深くなると、協力関係にある細菌達に守られるような形で、レッドコンプレックスが密かに結成され、彼らは酸素のない谷の暗がりでいつの間にか勢力を増している。
歯肉が腫れ、出血し、炎症が起きているなら、それはレッドコンプレックスの存在を示唆する。

師弟のディープ過ぎる蜜月関係

レッドコンプレックスの親玉であるP.g菌とみみず集団T.d菌は、とても口にできないほどのディープな蜜月関係を保っている。
とにかくベタベタとくっつき常にがっちりと手をつないで離すことがないのは、まだ可愛いほう。
実は、自分自身の汗やウンチのような排泄物(代謝産物)を互いのエサとして与え合って生きているという、なかなか常人には真似できないディープな関係性なのだ。
P.g菌がみみず集団に与える酪酸は、口臭の原因だ。
口の中では炎症の原因になるが、腸内の酪酸産生菌が作り出す酪酸は、体に良い働きをするのが不思議なところ。
腸内の酪酸産生菌は、善玉菌の代表であり、彼らが野菜や海藻などに含まれる食物繊維から作る酪酸は、アレルギー疾患や免疫疾患を抑制し、代謝を上げ、血糖や脂質をコントロールする素晴らしい物質だ。
なのに、お口の中では、口臭と炎症の原因になる。
適材適所なのだろうか。

(腸内の酪酸産生菌の素晴らしい働きと食物繊維の重要性については、Dr.桐村のブログ『進化しましょ。』の人気記事『腸内細菌がヒトの遺伝子を操作する』をご参考に。)

毒ガス発生:腐卵臭発生源に

みみず集団T.d菌は、毒ガスを発生させる。
腐卵臭の原因になる硫化水素だ。P.g菌の産生するメチルメルカプタンと同じく、悪臭防止法や大気汚染防止法で規制されている毒ガスだ。
皮膚やミトコンドリアを障害し、大量では死亡することもあるガスが、口腔内で発生しているのだ。

みみず集団の賢い戦法

①防御壁に穴を開けて破壊

みみず集団:T.d菌は、体の表面にMspというタンパク質を持ち、体内への防御壁である歯周組織にぺったりと張り付き、強固な歯垢・プラークとしてこびりつく。
さらに、このMspは、細胞膜に穴を開け、組織を破壊する。そうして発生した出血は、吸血菌であるP.g菌を活気づける。
運動能力のある彼らは、組織へも簡単に侵入する。P.g菌と同じく、銀河系の秩序を乱すのだ。

②パトロール隊を撹乱

みみず集団は、防御壁内で体内の秩序を守るパトロール隊:免疫細胞を撹乱させ、働きを妨げ、警備の目を逃れることができる。
細菌と闘うパトロール隊員:好中球の細胞内シグナルを撹乱し、好中球が現場に急行することを妨げ(走化性阻害作用)、また、リンパ球の働きを妨げる(リンパ球機能抑制作用)。また、パトロール隊の中でも敵を食べて殺す貪食細胞たちは、敵についた手錠(補体というラベリング)によって食べるべき敵を見分けているが、みみず集団には、その手錠(補体C3b)を破壊する能力がある。
手錠がついていなけば、貪食細胞たちに食べられることはない。

③パトリオットミサイルを迎撃

みみず集団は、パトロール隊が発射するミサイル(炎症性サイトカインIL-1β,IL-6,TNFα等)を迎撃し、分解することができる。パトロール隊の攻撃を巧みに回避する能力に長けている。

④出血を長引かせ兵糧を確保

みみず集団は、体内から止血のために分泌される止血因子(フィブリノーゲン)を分解する。これによって、いつまでも局所では血がダラダラと流れ続け、細菌の重要な栄養源・兵糧を確保している。吸血菌であるP.g菌は、この血を吸って喜んで生き続けるのだ。

これらの働きによって、歯周炎部位の治癒反応を撹乱し,炎症の慢性化,それによる滲出液と出血の持続により細菌達は、兵糧を得続け、戦火が長引くことになる。
みみず集団のいる歯周病は治りにくいのは、こうした巧みな働きのためだ。

予防はプラークコントロール・治療は歯科へ

歯周病治療をしっかりと行っている歯科受診すれば、顕微鏡検査でにょろにょろ動く彼らを観ることができる。
とにかく、彼らが勢力を持たないためには、口腔ケアをしっかりと行い、環境を清潔にしておくことだ。
予防には、とにかくプラークコントロール。
基本については、以下の記事を参考に。
出血・炎症がある場合、悪臭が発生している場合は、セルフケアでは限界がある。
まず歯科受診の上、治療法とケア法を相談しよう。

参照:「日本歯周病学会雑誌」2017: 59 (3)144-151

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