口臭連合軍①血を吸い豹変パンチパーマの歯周病菌の親玉:P.g菌

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「小さい頃は、あんなに大人しかったのにねぇ…。」
近所の奥様にそんな噂をされる口臭連合軍の中の精鋭部隊「暴れる赤い連合隊/レッドコンプレックス」。その親玉は、P.g菌(ジンジバリス菌)だ。

口臭連合軍①血を吸い豹変パンチパーマの親玉P.g菌

お口の王国:口腔内細菌叢と口臭連合軍』では、王国の世界観をお話しした。

さて、今日は、その中でも最も重症な歯周病に関連し、強い口臭や全身の疾患に関連するred complex/レッドコンプレックスと呼ばれる精鋭部隊から親玉のP.g菌(ジンジバリス菌)についてご紹介したい。

red complex/レッドコンプレックスとは

口臭の最大の原因・歯周病に関わる細菌群は、年齢と共に仲間を増やしながらお口の中に定着していく。
特に、歯肉の奥の奥にできる細菌の塊・プラーク(歯肉縁下プラーク)の中の細菌群は、6つの色にグループ分けされている(Periodontol 2000, 28:12-55, 2002.)

  • 小学生:ブルー・パープル・グリーン・イエロー
  • 中高生:オレンジ
  • 18歳以上:レッド

というようにピラミッド状に細菌群が手を取り、積みかさなり、定着していく。基本的に、歯周病として問題になってくると、オレンジやレッドの細菌群が増えてくる。唯一、グリーンに分類されているA.a菌は、若い年齢でも起こる急速進行型の歯周病を引き起こす可能性がある破壊神であり、若年でも注意が必要だ。

ちなみに、レッドコンプレックスのうちのP.g菌は、キスでうつる代表。自分のお口がレッドカードなら、パートナーのお口もレッドカードになってしまう。

オレンジやレッドだけが悪いのかというとそうでもなく、ピラミッドの下の細菌達の基盤や保護があって、初めて暴れることができる。だから、ピラミッドの下のうちからケアしておくことが大事。

また、オレンジやレッドがいても、ケアが行き届いたクリーンな環境では勢力が弱く、大人しくしているので、大したいざこざは起きない。

パンチとスキンヘッドの悪の親玉・吸血菌

P.g菌は、街が平和なうちは大人しい顔をしているが、ある日突然、悪に目覚め、口臭連合軍の中の精鋭部隊・レッドコンプレックスを率いる親玉として君臨する。

谷の奥底の暗がりにしか生息できないP.g菌

P.g菌は、酸素弱い。通常の酸素が豊富な口腔内では死んでしまうので、ほとんど息も絶え絶えといったところだ。健常者のプラークにはあまり目立たない。
ところが、お口の中を不潔にしていると、まずは、歯の見えるところ、歯肉縁上にプラークができる。歯磨きや歯間ケアが行き届かず、2週間以上ひとところに放置されると、それらは、白い歯石になる。
歯石は、歯と歯肉の間の谷にフタをして、酸素が届かない環境を作る仕事をする。その守られた暗い暗い谷底に、酸素が嫌いな歯周病菌族がうごめき始めるのだ。

黒い色素を分泌

P.g菌は、黒い色素を分泌する。通常の目に見える歯石は、白色だが、歯肉縁下の歯石は黒っぽい色をしている。このP.g菌のせいである。黒い歯石は、自己では絶対に処理ができないから、歯医者さんに行かなければならない。歯医者さんに行っても、黒い歯石を取るのは、大変だ。
ただし、白い歯石があるから谷に蓋をして彼らが好む酸素がない環境を作り出すので、白い歯石がつかないように予防すること。また、白い歯石を除去することが大事

血をみると豹変する吸血菌

酸素のない環境にプラークが発展し、歯周ポケットがどんどん深くなり、歯周病菌族が増えると、歯肉は炎症を起こして出血する。
すると突然、大人しかったはずのP.g菌が吸血菌として覚醒する。血を得た吸血菌は、数百〜数万倍の数に大増殖してしまう。歯周病菌族の親玉としての目覚めである。
血が好きな吸血菌の増殖で、口臭には血なまぐささが加わる

髪型で悪役度が違う

このP.g菌、大変わかりやすく、髪型で悪役度が違う
P.g菌の体全体には、線毛という毛が生えているが、遺伝子型によって髪型が違うⅠ〜Ⅴ型に分類されている。
Ⅰ型のストレートヘア型などは特に歯周病の悪化とは関連がないが、Ⅱ型のパンチパーマ型が最悪、Ⅳ型のスキンヘッド型もその次に悪いことがわかっている。

歯周病発症リスクのオッズ比は、ストレートヘア型では0.16倍だが、パンチパーマ型では、44.44倍、スキンヘッド型では、13.87倍になる(『orphyromonasgingdvalis線毛の付着能と遺伝子多型の歯周病原性との関連』AtsuoAmano et.al.)。

青酸ガスに匹敵する毒ガスを散布

P.g菌がエサにするのは、ヘム鉄と言う赤血球の血色素。ヘムはタンパク質である。彼らは、タンパク質を取り込んで、青酸ガスにも匹敵する毒ガスをお口の中で産生するのだ。

それが、メチルメルカプタン

  • 大気汚染防止法の汚染物質指定
  • 毒物及び劇物取締法の毒物指定

毒性は、青酸ガスにも匹敵し、細胞毒性が高い。
ニオイとしては、腐った玉ねぎのような悪臭である。

体自体にも毒を持つ毒性細菌

P.g菌は、体自体にも内毒素・LPS(リポポリサッカライド)という毒素を持っている。彼らは、歯槽骨や歯周の防御壁を簡単に破壊して、毒素を持った体で体内に簡単に侵入する。これによって、無菌であるはずの銀河系(体内)の秩序が破壊される。
敵の侵入によりパトロール隊(白血球)が「緊急事態警報」を発令し、局所だけでなく全身での炎症、銀河大戦が勃発するのである。

パトロール隊の能力を低下させる特殊能力

P.g菌には、特殊能力があり、パトロール隊の能力を低下させる酵素を持っている。
パトロール隊の菌を食べる作用(貪食作用)や殺菌作用を弱めることができる。さらに、歯肉という防御壁の骨格であるコラーゲン組織を分解する酵素も持っているので、歯肉を破壊することもでき、より簡単に体内に侵入することができるのだ。

動脈硬化疾患・糖尿病・認知症に関連

銀河系全体の戦争(炎症)でまずやられるのは、彼らの通る主要な道路(血管)である。
血管での炎症は、動脈硬化を引き起こし、

  • 高血圧
  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 大動脈瘤

などの疾患を引き起こす。破裂に至る重度の動脈瘤の組織からは、高頻度でP.g菌を含む歯周病菌が検出されるが、特に、表面に線毛を有するP.g菌は、血管内皮細胞に付着、侵入し、血栓を作りやすいとされている(産衛誌:2005:47326-327

さらに、注意すべきは、

  • 糖尿病

局所の戦争と銀河大戦は、糖尿病のコントロール悪化の元凶になる。細胞にインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性を引き起こすことから、血糖値が上がりやすくなる。P.g菌による歯周病〜全身の炎症をコントロールすることで、血糖値が改善する。歯周病ケアをしっかりすることで血糖コントロールを改善して薬剤を減らしていくことだってできる
糖尿病があると唾液の質も低下するので、糖尿病があれば歯周病になりやすいし、歯周病があると糖尿病は悪化しやすい。双方向のリスクである。

そして、認知機能を低下させる特殊能力も持つ!

  • アルツハイマー型認知症

重症な歯周病と認知機能低下については、相関があり、P.g 菌の内毒素・ LPSは、アルツハイマー型認知症の患者の脳内からも検出されている。

九州大学の研究グループは、P.g菌がカテプシンBという特殊な酵素によって、脳に炎症を起こし、アミロイドβたんぱくの沈着を引き起こすというメカニズムを明らかにしている(Brain, Behavior, Immunity:Oct.2017:65:350-361)。

さすが、歯周病菌族を束ねる連合隊レッドコンプレックスの親玉は、スターウォーズ並のスペクタクルで全銀河を舞台に大戦を繰り広げる。

成長するまで悪さはしないというちょっと情状酌量の余地があるところも踏まえて、ダースベイダーといったところ。

相手にとって不足なし!

私たちにできることは、とにかくお口の中を衛生的にして彼らを暮らしにくくすることだ。

口臭ケアの基本は、これらの記事を参照下さい。

 

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この記事を書いた人

編集長/桐村里紗

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
治療よりも予防を重視し、ヘルスケアを「ライフスタイルデザイン」再定義し、最新の分子整合栄養医学や生命科学、常在細菌学、物理学などをもとに、執筆、メディア、講演活動などで、新しい時代のライフスタイルとヘルスケア情報を発信。 著書に、『日本人はなぜ臭いと言われるのか〜体臭と口臭の科学』(光文社新書)など。