強い口臭の原因菌、大腸がんと関連続々。除菌療法への応用も!?

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お口の中の歯垢に潜む強烈な口臭の原因になる歯周病菌・フソバクテリウム・ヌクレアタムFusobacterium nucleatum)。口の中にいても厄介だが、これが口から飲み込まれることで、大腸がんや食道がんの誘因になっている可能性があることが続々と報告されている。除菌療法への応用も期待されているが、実際のところはどうなのか。予防は可能なのか。


(電子顕微鏡:歯垢の中にいるフソバクテリウム・ヌクレアタム)

フソバクテリウムが癌に潜む

歯周病は最近では、歯科を越えた全身の病気を引き起こすことが常識になっている。口臭というエチケット的な問題で、周りに不快に思われるだけではない。糖尿病や高血圧、心筋梗塞など、生活習慣病のの悪化の要因になり、口臭を放置すると、自分自身にも悪影響を与えてしまう。さらに、ここ最近では、強い口臭の原因である歯周病菌の主役・フソバクテリウム・ヌクレアタムが、大腸がんや食道がん、膵臓がんなどに関連することが続々と報告されている。

腸のマイナー菌が増えたらご用心

皆さん、当たり前過ぎてお忘れかも知れないが、お口は腸の入り口だ。お腹の中に定着している腸内フローラは、いずれもお口を通して環境から腸に取り込まれたものだ。歯周病菌を含む口腔内に暮らす微生物・口腔内フローラも、胃を通過して腸に落ち、腸に暮らすことができる。
通常は、胃酸が分泌されている胃は、風の谷のナウシカに出てくる酸の海のように微生物を溶かして殺菌してしまうのだが、何らかの原因で胃酸が薄まったりすると、ある程度の微生物が腸まで到達してしまう。
例えば、朝起きぬけ最高潮に歯周病菌が増えた粘ついたお口をそのままに、水を飲んだりしていないだろうか?胃酸が弱い朝、歯周病菌だらけの水を胃に流し込むことで、ある程度腸に流れてしまう可能性だってある。

歯周病の主な原因菌で歯肉縁下プラークの主役・フソバクテリウム・ヌクレアタムが、そうして腸に落ちてしまう可能性もある。

腸内フローラにおいて、フソバクテリウムはレアな存在だ。例えば、腸内フローラ検査・Mykinsoの結果をみてみよう。下のグラフの黄色の帯にフソバクテリウムも含まれている。この結果は私自身の結果だが、「あなた」という私の結果には黄色の帯がなく、ほとんど存在していないことがわかる。

一方で、こちらの検体は別の人物のもの。「あなた」の結果をみてみると、黄色の帯が平均よりも太い。

詳細な内訳をみると、腸内フローラのうち、3番目に多い6.73%を占める菌がフソバクテリウム属菌だった。この方の場合、少し前に感染症で強い抗生物質を1カ月程度内服し、下痢を起こしていた。胃も悪くなり、胃酸を抑える胃薬も長期内服しておられた。前後の比較はできていないが、これらのエピソードが菌のバランスの変化に影響した可能性がある。

フソバクテリウム属のうち、フソバクテリウム・バリウムは、潰瘍性大腸炎の発症や悪化に関与していることが報告されている。この菌が分泌する高濃度の酪酸が炎症に関連している可能性が考えられている(※1)。酪酸は、お口においては強い口臭の原因になる

大腸がん細胞で口臭菌が大繁殖

大腸に入ったフソバクテリウム・ヌクレアタムは、大腸の細胞内に侵入し、遺伝子にも変化を与えて、がん化やがんの進展に関与していると考えられている。
ある研究では、大腸がんの組織から、正常の組織の415倍ものフソバクテリウム・ヌクレアタムが検出されたと報告されている(※2)。ただ、これだけでは、
1)フソバクテリウムが大腸がんの組織を好んで後から感染したのか?
2)フソバクテリウムの細胞内への侵入によってがん化やがんの増殖が促進したのか?
どちらかハッキリしないのだが、今では、2)フソバクテリウムの感染ががん化やがんの増殖に関与しているという可能性が高くなってきている。

vitroの実験だが、大腸がん細胞とフソバクテリウム・ヌクレアタムを共に培養したところ、1)大腸がん細胞の増殖と浸潤能が促進されたことや、2)発癌に関連しているマイクロRNA(miR21)が4倍以上に増加していたことなどが報告されており、細胞へのフソバクテリウム・ヌクレアタムの感染は、がん関連遺伝子(発がん遺伝子や発がん抑制遺伝子)に変化を与えることで発癌をもたらすことなどが考察されている(※3)。

また、熊本大学の研究では、食道がんにおいても、フソバクテリウム・ヌクレアタムの感染が陽性のものがあり、それらは悪性度が高いことが報告されている(※4)

大腸がんリスク検査に口臭菌を応用?

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が、胃がんを引き起こす因果関係のため、ピロリ菌陽性者では積極的に除菌が行われている。同じく、フソバクテリウム・ヌクレアタムの検査を行い、リスクがあれば除菌すれば大腸がんの予防になるかも知れないという期待もある。

2017年『Science』に掲載された報告によると、実際にこの菌に感受性のあるメトロニダゾールという抗生剤の投与によって、大腸がん細胞のフソバクテリウム量が減少し、がん細胞・腫瘍の増殖が抑制されたとのこと(※5)。抗生剤投与による大腸がんの予防・治療の可能性は将来的に選択肢の一つになるかも知れない。

ただし、常に意識しておかなければならないのは、抗生剤は、99%の善良で友好的な常在菌群にも打撃を与え、口腔内・腸内・皮膚・膣内などの細菌叢(フローラ=お花畑)を焼き討ちにしてしまう大量破壊兵器なのだということだ。なるべくなら、お世話になりたくないというのが本音だ。

口臭ケアをしっかりが基本の予防

フソバクテリウム・ヌクレオタムが腸内で増えている可能性があるのは、こんな人。

  1. 歯周病のケアをしていない人
  2. 胃酸が十分に出ない人
    ピロリ菌感染で萎縮性胃炎がある
    胃酸抑制タイプの胃薬を常に飲んでいる

フソバクテリウム・ヌクレアタムは、基本的には歯周病原因菌である口腔内の細菌だ。しかも、プラークコントロールをせず口腔ケアを怠り、歯肉縁下プラークにまで発展して初めて増殖し始める(詳しくは、『口臭の発生源・ザリガニの巣窟を一掃せよ!』を参照)。だから、口腔ケアをしっかりしてお口の中で増やさないのが基本ザリガニ臭があれば、増殖注意と考えよう。

その増殖したフソバクテリウム・ヌクレアタムは、食べ物や飲み物、1日1〜1.5Lも飲み込まれる唾液と共に、胃に流れ落ちる。前述のように、酸の海で殺菌されるのが普通だが、胃酸が十分に分泌されない人や胃酸を抑える胃薬を飲んでいる人は、殺菌されずに腸にまで菌が到達しやすくなる。
もう一度言うが、胃酸分泌が弱い朝に、ネバネバのお口で水をがぶ飲みするのも如何なものか。朝起きぬけの菌だらけの口に食べ物や飲み物を流し込んだりすべからず
睡眠中に最高潮に増殖した歯周病菌を取り込まないためにも、起きたら、まず、歯磨きを基本としよう。

※1:Modern Media. 2014 ; 60 ; 325 – 330 .

※2:Genome Res. 2012 Feb; 22(2): 299–306.

※3:Gastroenterology.2017 March;152(4):851–866

※4:Clinical Cancer Research. 2016 Nov;22(22):5574-5581

※5:Science. 2017 Dec 15;358(6369):1443-1448

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この記事を書いた人

編集長/桐村里紗

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
治療よりも予防を重視し、ヘルスケアを「ライフスタイルデザイン」再定義し、最新の分子整合栄養医学や生命科学、常在細菌学、物理学などをもとに、執筆、メディア、講演活動などで、新しい時代のライフスタイルとヘルスケア情報を発信。 著書に、『日本人はなぜ臭いと言われるのか〜体臭と口臭の科学』(光文社新書)など。